教本と講義
ひかりの輪で使用している教本やテキスト、それを解説した上祐代表の講話などをご紹介しています。

2016年01月

  • 2014年GWセミナー心理学講義  「認知療法、マインドフルネス認知療法」 (2016年01月25日)

    2014年GWセミナー心理学講義『認知療法、マインドフルネス認知療法』

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     1.認知療法

    認知療法とは、自分の感情はものごとの捉え方やものごとにたいする考え方によって決まるということを前提にしています。その自分のもの事の捉え方のくせや思考パターンを知り、極端な偏った捉え方の場合、それを柔軟性の高いものに変化させていくことで、感情・気分ひいては行動の改善を図り、社会への適応性を高めるための方法です。


    (1)感情は現象をどう考えるかで決まる

    認知療法は、「人の感情・気分というものは、現実の物事や状況によるのではなく、その人の物事の捉え方・見方に左右される」という事実から出発します。

    同じ状況(現象)を経験しても、その人のものの考え方・捉え方で苦・楽、幸・不幸が決まります。その現象によってつぶれてしまうか、バネにして成長していくかも、ものの考え方で決まってきます。幸・不幸は心次第ということです。

    これは仏教の「すべては心の現れ」という教えと同じです。特に、大乗仏教の深層心理学と言われる唯識思想がそうです。

    また、エピクテトスという古代ギリシャの哲学者も
    「人を悩ませるのは、事柄そのものではなくて、事柄に関する考えである」と語っています。


    (2)「心のくせ」「認知の歪み」「自動思考」

    それぞれの人には、それぞれの人特有の物事の捉え方(認知のパターン)があって、それが感情に影響を与えています。例えば、いつでもネガティブな考え方をしている人は、憂鬱な気分に悩まされることになります。憂鬱になり、感情が不安定なため社会に適応できにくい人のなかには、自分の心を苦しめるような片寄った極端なものの見方(認知の歪み、マイナスの心のくせ)をしていることが原因と考えられる場合が多くあります。

    認知とは簡単に言えば、外界をどう捉えるかということです。それが「歪んで」いるとは、例えて言えば、外界を映す心の鏡がグニャリと曲がっていて「歪んで」いるということで、現実をそのまま受けと止めず、極端な偏った捉え方をするということです。少しの失敗を大げさに捉え「自分の人生はもうおしまいだ」と考えてしまうことなどがその典型です。このように捉えれば心は落ち込みます。

    ですから、自分の「認知の歪み」のパターン、つまり「心のくせ」を知り、それを修正し、柔軟性の高いものに変化させることができれば、気分・感情のコントロールすることに役立ちます。

    しかし、「心のくせ」を自覚することはなかなか難しいことです。「心のくせ」はすっかり身についてしまっているものなので、自分で意識しないうちに自動的に出てくることが多いからです。

    「ある状況」には「こう反応」するということが、自分にとって当たり前になっています。自分で「こうだ」と考えて「ある状況」に対する捉え方・考え方を決めているわけではなく、無意識のうちに自動的に反応しています。自動的にある思考が生じてきます。「心のくせ」はこのように自動的に生じてくるものなので、認知療法では「自動思考」と言います。例えば、道で知り合いに会ったときに、相手が知らん振りして行ってしまったというときに、「何で無視するんだ、ひどい!」などという思い(思考)が自動的に出てきます。これが「自動思考」であり、そのように受け止めてしまう「心のくせ」なわけです。

    このように人のものの見方・捉え方というものは、ほぼ固定していて、「こういう出来事」には「こういう捉え方」をするというのが決まってしまっています。「固定観念」というものですね。

    したがって、落ち込んだり、沈んだ気分になったときには、その基になっている考え方を自覚していないものです。「心のくせ」は文字通り「くせ」であるので自分が気づかないうちに作用して、いつの間にか気分を暗く重苦しいものにしてしまいます。

    「心のくせ」は、人が生まれてから、子供時代、思春期・青年期を経て大人に至るまで経験し学習したことから成り立っています。
    人生の初期に学習したことほどしっかりと身に染み込んでいて、それを自覚することは相対的に難しいと思われます。成人してから学習したことはそれに比べ比較的容易に自覚できることが多く、それを修正していくことも比較的容易であることが多いと言えるでしょう。


    (3)スキーマ(=コア・ビリーフ、中核的な思い込み)

    さらに自動思考の奥にそれを生じさせる中核的な思い込み(スキーマ、コアビリーフ)というものがあります。

    スキーマ(中核的な思い込み)には以下のようなものがあります。

    ・自分はダメな人間だ。
    ・人はなんでも完全にできないといけない。
    ・何でも自分でやらないといけない。
    ・すべての人から愛されなくてはいけない。
    ・人は自分を利用するだけだ。
    ・人に弱みを見せてはいけない。
    (以上、大野裕著『こころが晴れるノート』創元社から引用)
    ・自分はみんなから嫌われている(自分のことを好きになる人なんていない)
    などです。


    (4)認知療法の対象

    うつ、パニック障害、強迫観念、被害妄想、落ち込み、不安、心配、怒り、卑屈などの強い人など。精神病理でなくても、人間関係、ストレス、自信の強化などにも有効で自己改革に役立つ方法です。


    (5)認知療法の手順

    ①思考と感情・気分の関係を知る
    どんな考え方をするとどんな感情・気分が生じるかを知る。

    ②「認知の歪み」の種類を知る

    ③自分がどんな「認知の歪み」をもっているか自覚する
    落ち込んだとき、沈んだ気分になったときにどのような思考(自動思考)が生じたかを記録する。そうすることにより、自分の認知のパターンがわかる。

    ④自覚した思考を適正な思考に修正する
    自分の認知パターンがわかり、それによってある感情・気分が生じていることを理解した次の段階として、認知パターン(思考)を合理的で適応的なものに修正する。

    ⑤スキーマ(中核的思い込み)を知り、修正する
    (スキーマに関しては取り組まない場合もある。)

    以上が認知療法の基本的手順です。

    まずは、(1)から順にすすめ、(3)を何回か繰り返し、ほどよいところで(4)の段階にいきます。(4)を繰り返すうちに少しずつ自分のものの受け取り方に変化が生じてきます。

    実際にやってみると分かりますが、自分の心(視野、考え方)が広がって行くのがわかります。
    固定したものの見方、捉え方(=観念)というのは、私たちの心を硬直させ、狭めてしまうものです。認知療法はその硬直した観念(物の捉え方)にアプローチします。 大らかで、柔らかい心になることによって、ものの捉え方も柔軟になります。

    仏教では「ものをありのままに見る」ことが悟り(心の揺るぎない安定状態)に至るうえで重要だと説きます。観念に曇った心は、ものをありのままに見ることはできません。ですから、認知療法は仏教の悟りにも通じる心理療法だと言えるでしょう。そして、悟りの手前の日常での心の安定を得るうえで、たいへん有効です。

    それでは、以上の手順を詳しくみていきます。

     

     

  • 2015~16年末年始セミナー心理学講義 『愛着理論』 (2016年01月12日)

    2015~16年末年始セミナー心理学講義 『愛着理論』

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     1.愛着とは

    (1)愛着とは何か

    愛着とは、仏教では愛着は煩悩の一つで、根本的な3つの煩悩のうち貪り(貪:とん)といわれるもので、苦しみを生じさせるものとされる。

    心理学的には、「愛着」という概念は、養育者との情緒的な特別な結びつきのことを言い、乳幼児期の赤ちゃんが心身の健全な成長のために必要な安心・安全を提供するものとする。
    この講義では、心理学的概念としての「愛着」についての理論を講義する。


    (2)愛着は生物学的な現象

    愛着は、人間だけに見られるものではなく、猿などの霊長類や犬、馬などにも見られるもので、成長のために組み込まれているものと言える。鳥における刷り込みなどもそうである。

    すり‐こみ【刷(り)込み】
    生まれたばかりの動物、特に鳥類で多くみられる一種の学習。目の前を動く
    物体を親として覚え込み、以後それに追従して、一生愛着を示す現象。動
    物学者ローレンツが初めて発表した。刻印づけ。インプリンティング。
    (デジタル大辞泉より)

    観察実験で、出産直後1時間以内の赤ちゃんでも、単純な絵よりも、人間の顔の絵の方を目で追う傾向があることがわかっている。また、他の音よりも、人間の声に耳を傾けるということも実験結果でわかっている。

    人間は、赤ちゃんから子ども時代・思春期をへて大人になっていくが、赤ちゃんは自分では何一つできない。すべてを面倒見てくれる人がいなければ生きていけない存在だ。愛着はそうした面倒を見る人と赤ちゃんとの間で形成されるものである。

    愛着は、生物として成長し生存していくためには必要で、個体の生存と種の保存のためには必要であると「愛着理論」ではいう。


    (3)愛着は母子の相互関係

    赤ちゃんは自分の欲求に応えてくれる母親の存在があればこそ成長していくことができる。適切な世話は母親が赤ちゃんを可愛いと思い愛着していくことでうまくできるようになる。
    乳児が相手の顔を見つめ微笑み、声を出す「天使の微笑み」とも言われるものがあり、どんな人でも赤ちゃんのその微笑みを見ると可愛いと思い愛着を誘う。そうして母親の愛着が芽生え、愛情深い親身な世話の原動力になる。愛情深い親身な世話によって、赤ちゃんも母親に愛着するようになる。このように愛着は母子の相互関係で成立する。

    自分の欲求に対して応えてくれる対象に愛着が作られると、子どもは愛着の対象とそれ以外の存在をはっきり区別し、愛着対象だけを追い求めるようになっていく。そして、世話をされるのが愛着対象でなければ子どもは十分に満足しなくなる。

    この乳幼児期の愛着の仕方がその後の対人関係をはじめ、ストレスや困難にぶつかったときの処し方に影響するということがわかってきている。


    2.ボウルビィの愛着理論

    イギリスの児童精神分析家のボウルビィが愛着という概念によって「愛着理論」を作った。愛着理論のできる先行の研究として、ホスピタリズムの問題とアカゲザルの実験があるので紹介する。


    (1)ホスピタリズム

    ホスピタリズムは施設病とも言われ、施設で育つ子どもに心身の発達の遅れが著しく、病気に罹りやすく、治りにくく、死亡率も高いというもの。1920年ころに最初の報告がされた。
    栄養は十分与えられていても発達の遅れの問題が生じて、子どもたちは、人と接触しようとせず、表情も乏しく、自分の殻に閉じこもり、じっと座り込んでぼんやり宙を見つめていたり、意味の無い同じ行動を繰り返したり、自傷行為を行ったりという状態だった。

    どうしてこのような問題が起こるか研究した結果、施設では、集団で保育され、スキンシップがなく、親身になって子どもの世話をするのではないという養育環境がその原因であるということがわかった。そうしたことから、スキンシップの重要性が理解され徐々に改善されていたが、解決されたわけではない。また、里親を積極的に募ることで改善を図ろうとした。


    (2)アカゲザルの実験

    アカゲザルの実験とは、代理母として、哺乳瓶をつけた針金製の母ザルと、哺乳瓶をつけてない柔らかい布製の母ザルを作り、子ザルの行動を研究したものである。

    子ザルは、空腹を満たせる針金製の母ザルよりも空腹は満たせないが、柔らかい肌触りの母ザルと過ごす時間が圧倒的に多く、不安や恐怖を感じる場面では、柔らかい感触の母ザルにしがみつくことが確認された。このことで、心地よい身体接触(スキンシップ)が重要な意味を持つことがわかる。空腹を満たせることだけでは愛着行動は引き起こせないということになる。


    (3)母親との特別な結びつき「愛着」

    ボウルビィはこれらの研究をさらに一歩進め、「愛着」という概念で説明した。

    ボウルビィは、戦災孤児など親がいない施設で養育されていた子どもたちの調査を第二次世界大戦後にWHO(世界保健機関)に依頼されて行った。
    ボウルビィは、そうした子どもたちの問題を母性愛の剥奪という観点から説明した。母親と離されることでその愛情を受けることができず、それによって、母親との特別な結びつきが作られないことが、孤児たちの問題の原因であるとした。この母親との特別な結びつきの性質を「愛着」と呼んだ。


    (4)愛着は特定の人との関係

    愛着は、一人の人との緊密な関係によって作られることがわかっている。それは通常母親であるが、何らかの理由で母親に育てられなくても、愛情深く、親身に育ててくれる人がいればその人と愛着関係は成立する。そして、その特定の対象者だけに愛着行動をとり、それ以外の対象に対しては愛着行動は抑えられる。人見知りするのは母子の愛着関係が成立していることを表している。

    ※愛着行動:愛着を抱いた対象への接近や接触、後追い行動、微笑、発声など

    ホスピタリズムの問題が報告され、その改善が行われてきていたが、愛着理論では「愛着」という概念で問題の原因を一歩深く説明することができた。施設では、複数の人が入れ替わりで接することになり、特定の人と十分な愛着関係を結ぶことがなかなかできない。複数の人にスキンシップもある養育をされても、養育者が入れ替わる環境では特定の人との安定した関係・心の絆(=愛着)を築くことは難しい。
    このように健全な安定した愛着を形成できないと、歪んだ不安定な愛着が形成され、日常生活に大きく障害となるものを愛着障害という。


    (5)イスラエルのキブツの例(※キブツ:イスラエルの集団農業共同体)

    一人の人との関わりでなければ愛着関係は成立しないということの例として、イスラエルのキブツと呼ばれる集団での養育の仕方がある。

    キブツでは、合理性、効率性と子どもの自立のためにもいいという予測のもとで、子どもの世話は集団で行い、夜も母親と過ごすことなく子育てをした結果、不安定な愛着行動をとるようになったということが研究によってわかった。その後、キブツでの養育方法は変更された。
    集団での養育が愛着形成に障害を生じさせることと、愛着関係が子どもの健全な成長に必要だということが、この例からもわかる。